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相談事例・ケース別解説

明渡訴訟の流れと費用|家賃滞納から強制執行まで、自社物件で経験した全記録

公開日:2026年7月18日 更新日:2026年10月10日

家賃の滞納が続き、連絡も取れなくなった入居者に対して、明渡訴訟の提起から強制執行までを行いました。本記事は、当社が自社の賃貸物件で実際に経験した一部始終の記録です。手続きの流れだけでなく、実際にかかった費用の金額、判断に迷った局面も含めて残します。

先にお断りを2つ。プライバシー保護のため、時期・場所など一部の情報はぼかしています(内容は事実のとおりで、脚色はありません)。また、本記事は当社が自社物件について行った手続きの記録です。訴訟の代理や法律相談は弁護士の職域であり、当社がお受けすることはできません。個別のケースの法的判断は、弁護士や裁判所の窓口にご確認ください。

前提:保証会社の保証が切れていた物件

対象は、オーナーチェンジ(入居者付きのまま所有者が変わる形)で取得したアパートの1室です。入居者は前所有者の時代からの方で、入居当初は家賃保証会社に加入していたものの、当社が取得した時点では保証が切れていました。オーナーチェンジでは、入居者が部屋を借りる権利(賃借権)は所有者が変わってもそのまま続き、新しい所有者は賃貸借契約の貸主の立場を引き継ぎます。保証の再加入を求めないままこの契約を引き継いだことが、結果として、その後の対応の選択肢を狭めることになります。

滞納の始まり:「不規則な入金」が判断を難しくする

滞納は、ある日突然まとまって起きたのではなく、じわじわと始まりました。遅れる月が出る。連絡すると入金がある。やがて電話がつながらなくなり、現地訪問と手紙の投函に切り替える。その繰り返しのうちに、状況は年単位に及びました。

対応の判断を難しくしたのは、入金が不規則に続いたことです。連絡が取れない状態でも、忘れた頃に1か月分だけ入金がある。完全に止まっていれば見極めは早かったはずですが、断続的な入金がある間は法的手続きに進む判断がつきにくい。実際、3か月分の滞納と連絡途絶がはっきりしてから提訴を決断するまでに、約1年を要しました。

連絡が取れない入居者への手紙を投函するイメージ

提訴:本人訴訟という選択

提訴に踏み切った決め手は、電話・手紙を含めてこちらへの連絡が完全に途絶えたことです。交渉の相手がいない以上、残る手段は法的手続きだけでした。

今回は弁護士に依頼せず、本人訴訟(自分で訴状を作成して提訴する形)を選択しました。提訴先は地方裁判所の支部です。訴額が140万円以下の訴訟は通常、簡易裁判所の管轄ですが、建物の明渡しなど「不動産に関する訴訟」は、訴額が140万円以下でも地方裁判所に提起できます(裁判所法24条・33条。e-Gov法令検索)。裁判所の案内にも「不動産に関する訴訟の場合は、140万円以下であっても、地方裁判所にも提出することが可能です」と明記されており、明渡訴訟はこの「不動産に関する訴訟」に当たります(裁判所「訴え提起の際の管轄について」)。なお、滞納家賃だけを請求する金銭訴訟は、この「不動産に関する訴訟」には含まれません。簡易裁判所と地方裁判所のどちらに出すかはケースによるため、迷う場合は提訴前に裁判所の窓口で確認してください。建物明渡請求の訴状の書式・記載例も、裁判所のサイトや窓口で入手できます。

提訴にかかった実費

項目 今回の金額 備考
手数料(収入印紙) 5,000円 訴額から算定。建物明渡しの訴額は建物の固定資産税評価額をもとに計算する(明渡請求では評価額の2分の1とする運用がとられている)
予納郵便切手(予納郵券) 6,150円 裁判所が書類を送るための切手を前納する仕組み。金額は裁判所・当事者数で変わる

提訴段階の裁判所関係の実費は合計1万1,150円です(弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用がかかります)。

提訴から判決までは約2か月。期日には出廷しました。相手方は争わないまま、明渡しを命じる判決が出ています。

明渡訴訟を提起した地方裁判所のイメージ

判決後:突然の「2か月分入金」

判決の後、想定していなかった動きがあります。突然、2か月分の家賃が振り込まれたのです。

強制執行には相応の費用がかかります。任意の支払いが再開するのであればそれに越したことはない。そう判断し、しばらく様子を見ました。しかしその後、再び音信不通と滞納が始まり、強制執行の手続きに進むことを決めます。判決から明渡し完了までは約半年。滞納が本格化してからは合計約1年9か月です。

全体のタイムライン

段階 期間(今回のケース)
滞納が始まる(遅れがち→時々入金) 年単位で断続的に継続
3か月分の滞納+連絡途絶 → 提訴の決断 約1年(断続的な入金により判断が長引いた・最長の期間)
提訴 → 明渡しを命じる判決 約2か月
判決後(2か月分の入金→再滞納→執行の決断) 数か月
執行申立て → 明渡しの催告 執行官との日程調整による
催告 → 引渡し期限 → 断行日 原則1か月(法定)
滞納本格化 → 明渡し完了まで 合計 約1年9か月

強制執行の手続き:催告から断行まで

強制執行は、判決を取っただけでは始まりません。実際の流れは次のとおりでした。

  1. 執行文の付与と送達証明書の取得:判決を出した裁判所で、判決正本に「執行文」を付けてもらい、判決が相手方に送達されたことの証明書(送達証明書)を取得します(裁判所「不動産引渡(明渡)執行」)。
  2. 執行官への申立てと予納金:地方裁判所の執行官室に強制執行を申し立て、費用の前払いとして予納金(今回のケースでは10万円)を納めます。金額は裁判所によって異なり、使わなかった分は後日返還されます(今回も一部が返還されました)。
  3. 明渡しの催告:執行官・立会人・撤去業者・当社の4者で現地へ。当社が部屋の鍵を保有していたためそのまま解錠できましたが、鍵がない場合は解錠技術者が同行します。室内を確認し、引渡し期限を知らせる公示書を室内に貼付してこの日は終了。引渡し期限は原則として催告の日から1か月と定められています(民事執行法168条の2・e-Gov法令検索)。
  4. 断行日(強制執行の実施):期限までに退去がなければ、指定日に明渡しを強制的に実行します。

断行日の実際

今回のケースでは、入居者はすでに荷物を残したまま所在不明となっており(いわゆる夜逃げの状態)、断行日に本人が現れることはありませんでした。そのため、室内の家財(動産)の撤去のみを行って明渡しが完了しています。

この撤去費用が約35万円。室内の動産をそのまま処分できたケースでの金額です。価値のある動産が残されている場合は一定期間保管する扱いとなり、保管費用が別にかかります。

強制執行後、家財が撤去され空になった部屋のイメージ

費用の総まとめ:滞納家賃は回収できたのか

段階 項目 今回の金額
提訴 手数料(収入印紙) 5,000円
予納郵便切手 6,150円
強制執行の申立て 執行官への予納金 10万円(残額は返還あり)
断行日 動産の撤去費用 約35万円(そのまま処分できた場合)
その他 内容証明・郵便代など 数千円規模
合計(実質負担) おおよそ50万円前後

※上記は当社の一件における実例です。裁判所や物件、残置された荷物の量、手続きの内容によって金額は変わります。目安としてご覧ください。

そして滞納家賃の回収について。判決では未払い家賃の支払いも命じられますが、資力のない相手方からの回収は現実には難しく、今回のケースでも回収はできませんでした。

今回の反省:保証会社の保証を復活させなかったこと

今回の一件での最大の反省は、取得時に、切れていた家賃保証会社の保証を復活させなかったことです。引き継ぎの時点で、加入し直してもらうべきでした。

現在の保証商品は、滞納家賃の立て替えに加えて、明渡訴訟の費用までカバーするものが多くあります。当社の賃貸管理では入居時の保証会社加入を必須としています。オーナーチェンジ物件を取得する際は、引き継ぐ入居者の保証の有無と有効期限を必ず確認してください。

その後:部屋は再生し、アパートは売却へ

明け渡された部屋は汚損が激しかったため、リフォームのうえ募集し、次の入居者が決まりました。その後、このアパートは建物ごと売却しています。

滞納・訴訟・強制執行・再生・売却。この一連を実務として経験していることが、家賃滞納者がいる物件の売却相談をお受けする際の土台になっています。滞納物件は、明渡し前に売るか、明け渡してから売るかで、購入を考える方も価格も変わります。オーナーチェンジ物件の買取・仲介のご相談も、この経験を踏まえてお話しできます。

この経験から言えること

ひとつは、強制執行を避けたいという心理が、判断を遅らせるということです。費用のかかる手続きだからこそ任意の解決を待ちたくなり、断続的な入金がその迷いをさらに深くします。今回、明渡しまでに約1年9か月を要した最大の要因はここにありました。

もうひとつは、家賃保証会社の重要性です。滞納リスクへの備えとして、加入と更新の確認に勝るものはありません。補償内容も年々充実しており、賃貸経営では必須と考えています。

なお、転勤などで「持ち家を貸すか、売るか」を迷っている方には、この記事の経験もふまえて3つの選択肢の比べ方をまとめた転勤で持ち家をどうするかの記事もあります。

ご確認ください

本記事は、当社の一つの事案の記録です。手続きの流れ・必要書類・金額は、裁判所や事案によって異なります。また、訴訟や交渉の代理、個別の法律相談は弁護士の職域であり、当社がお受けすることはできません。実際に法的手続きを検討される際は、弁護士または裁判所の窓口にご相談ください。本記事の内容は結果を保証するものではありません。

よくある質問

明渡訴訟は弁護士に頼まず自分でできますか?

今回のケースでは本人訴訟で判決まで進めました。ただし、相手方が争う事案や事情が複雑な場合は、はじめから弁護士に相談するほうが確実です。判断に迷う場合は、裁判所の窓口や弁護士にご確認ください。

費用は全部でいくらかかりましたか?

今回の一件では、提訴の実費が1万1,150円、執行官への予納金が10万円(一部返還あり)、断行日の動産撤去費用が約35万円で、実質の負担はおおよそ50万円前後でした。裁判所や残置物の量など条件が違えば金額は変わります。

期間はどれくらいかかりましたか?

提訴から判決までが約2か月、判決から明渡し完了までが約半年です。それ以前の「提訴に踏み切るまで」に約1年を要しており、全体では約1年9か月でした。

滞納された家賃は回収できましたか?

できませんでした。判決で支払いが命じられても、資力のない相手方からの回収は現実には難しいのが実情です。

強制執行の当日、入居者がまだ住んでいたらどうなるのですか?

今回のケースでは退去済み(夜逃げの状態)だったため、家財の撤去のみで完了しました。在室している場合の対応は、執行官が手続きに沿って進めることになります。個別の状況については裁判所・弁護士にご確認ください。

こうならないための予防策はありますか?

家賃保証会社への加入・更新の確認が最も有効です。現在の保証商品は滞納立替えだけでなく訴訟費用までカバーするものが多く、当社の管理物件では入居時の加入を必須としています。

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「売るかどうか迷っている段階」でも大丈夫です。買取と仲介、どちらで進めた場合の金額も比べられます。他社で断られた物件のご相談も歓迎です。